その瞳に私を写して
たまりかねて、麻奈は、言ってしまった。


「勇平君、私の会社に来る?」

「えっ?」

キッチンで、冷蔵庫を開けた勇平は、手を止めた。

「私が一声言えば、何とかなるから。」

勿論、麻奈の親切心だった。

「余計な事、するなよ!」

だが勇平は不機嫌そうに、冷蔵庫の扉を閉めた。


「大きな声を出して、ごめん。でも俺、麻奈さんの力を借りずに、やってみたいんだ。」

麻奈は、思った。

今、自分の力を貸すことは、簡単な事だ。

しかし、今の彼にとっては、それが一番の壁になってしまうのだ。

彼は今、自分の足で立とうと、必死なのだ。


「私、勇平君の写真好きだよ。」

勇平は、食材を切る手を止めた。

「お世辞じゃないよ。勇平君の写真、写っている人の気持ちまで、伝わってくるもん。だから、好きだよ。」

勇平は、小さく頷いた。
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