命令恋愛
一瞬取れそうだと思ったけれど、ウサギの頭は思ったより重たいようで、アームはスルリと抜けてしまった。


「なにが欲しいの?」


突然後ろから声をかけられて、危うく悲鳴を上げそうになってしまった。


BGMのせいで人の気配に気が付かなかった。


見ると、そこには40代後半くらいの男性が立っていた。


「お金」


チヒロがニコリと笑ってそう言った。


急にそんなこと言って、お金が出て来るとは思えない。


けれど男性は、ズボンのポケットから黒い革の財布を取り出したのだ。


その場で広げて、あたしとチヒロに札束を見せる。


それを確認してチヒロがニヤリと笑い、目配せをしてきた。


いきなり札束を見せてくるなんて、このおじさんもその気で声をかけてきたのだろう。
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