ラブパッション
恋する覚悟
歓迎会は二次会でお開きになった。
金曜日で、明日の心配をしなくていいせいか、若手の先輩たちが、三次会に行こうと元気に言い出した。
菊乃と笹谷君も、「今夜はオールだ!」と、意気揚々とカラオケに繰り出していく。


「ほら、夏帆、行くよ!」


菊乃に手招きされて、私もみんなと一緒の方向に足を向けた。
でも、周防さんがみんなから離れて駅の方向に歩いていくのを見つけて、足を止める。
一瞬逡巡して、思い切ってその後を追いかけた。


先を行く周防さんは、横断歩道を渡って通りの向こう側に辿り着いたところ。
歩行者信号が点滅するのを見て、私は一気に走り出した。
そして、なんとか信号が変わる前に渡り終え……。


「周防、さんっ……!!」


人混みに見え隠れする背中を見失ってしまいそうで、私は身体を折って声を振り絞った。
私の声に気付き、周防さんは立ち止まった。
ゆっくりと、振り返ってくれる。


「なんだ……椎葉さん?」


他の通行人の邪魔にならないよう、歩道の脇に寄って私を見ている。
私はもう一度ダッと駆け出して、彼の前でピタリと足を止めた。


「カラオケ、行かなかったのか?」


あの後、周防さんは係長に飲まされていた。
やっぱり酔っているのか、ほんの少し頬が赤い。
優しい笑みを湛えた目元に、いつもより強い大人の男の色気が匂い立っている。
< 75 / 250 >

この作品をシェア

pagetop