似非王子と欠陥令嬢
「…多分だけど王妃が時渡りを行ったのが1度だけなのだとすれば行ったのはキャロルへの禁術だと思う。」

「へ?
私ですか?」

ルシウスは前を見据えたまま頷く。

「ずっと引っかかってはいたんだよ。
王族は1歳で魔力量を測るけどそれ以外は違う。
大体6歳位だと聞いてる。
キャロルの母君が何故キャロルの魔力量が多いのに気が付いたのか分からなかったけど未来を見て知っていたからだと考えれば辻褄は合う。
…もしかしたらキャロルの見たローブの人物こそ時渡りをした人間かもしれない。」

「…でも禁術は失敗した。」

「そう。
だから過去は変わらなかった。
そう考えれば納得はいくんだよ。
…でもこれを訴えた所でどうにもならない。
この羊皮紙だけでは本当に時渡りをしたのかどうかも分からないからね。」

ルシウスは悔しそうに唇を噛む。

何か1つ分かっても何もかも足りないのだ。

霧を掴まされている気分だ。

キャロルはルシウスから視線を外し書物を覗く。

時渡りのやり方を見る限り出来ない事はない。

ただ禁術を使ったとバレると魔術師の資格は剥奪され魔封じを一生付けられる上に処刑も有り得る話だ。

時渡りをして禁術を未然に防いだとして全ての環境が変わっているだろう。

少なくとも塔には住んでいない。

この年で魔術師会に入っているかも怪しい。

そうなった時そのキャロルはキャロルだと言えるのだろうか。

もはや別の誰かなのではないだろうか。

何となく怖くなって身震いしてしまう。


だけど。

もし時渡りを行った人物を見る事が出来れば風向きは変わるかもしれない。

現代に戻ってその人物を探せば良いのだから。

だけどその為に支払う代償が大き過ぎる。

うーむとキャロルは唸る。

呪いが解けても魔封じを一生付けられては何も変わらない。

状況が悪化するだけだ。

「…どうしたもんですかねえ。」

「本当にね。
…余計な事をしてくれた物だよ。」

そう言ってルシウスは長い長いため息を吐いた。

ルシウスの想像以上に酷い展開なのだろう。

「…しかも王妃様が時渡りをすればこの会話の記憶もなくなる可能性だってあるんですもんね。」

「そうなんだよね。
ほんと厄介な魔術を使ってくれたよ。」

ルシウスはそう言って腕を組み目を閉じて瞑想に入ってしまう。

1人で考えたいのだろう。

キャロルもソファーに寝転がり目を閉じた。

いい案は浮かばなかったが。
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