似非王子と欠陥令嬢
レオンはずびっと鼻を啜る。

ローテーブルにバスケットを置いて立ち上がった。

「…また明日来るわ。
置いとくから飯ちゃんと食えよ?」

やはりキャロルは何も答えない。

レオンは溜め息を付いて扉に手をかけた。

半年毎日続いた光景だ。

今日は何か話してくれるかもと期待しているがキャロルは人形の様に窓の外を眺めるだけだ。

その内消えてしまうんじゃないかと思えてならない。


ートントントン


掴んでいた扉が誰かに叩かれている。

レオンはばっと手を離した。

リアムはずっとルシウスに付きっ切りで塔に来る事はない。

この半年間来客などなかった。

いや出会ってからずっとレオン達以外の来客などメイドや職員しかいなかったのだ。

キャロルを見るがキャロルは窓辺に座ったまま視線は動かない。



ートントン


もう一度扉が叩かれる。

レオンはゴクリと唾を飲み込んで扉を開けた。

「遅いですわ!
…ってあら、レオン様?」

「…アンジェリカ嬢?」

扉の外に立っていたのはアンジェリカ嬢であった。

思わぬ客人にレオンは目を丸くするしかない。

そもそも離宮に住む者はここにキャロルが住んでいる事など知らないはずだ。

「キャロル様はこちらにいらっしゃるのでしょう?
会いに来たのですから入れて頂けますかしら?」

「あ、ああ。」

レオンが避けるとアンジェリカ嬢がズカズカと部屋に入ってくる。

「失礼致します。」

「…え?」

アンジェリカ嬢の後ろに高齢の老人が付いて来ていた。

レオンに向かって深々を頭を下げる。

一体何者だと思いながらも混乱で言葉が出て来ない。

「キャロル様!
わざわざ出向いた義妹に挨拶位したらどうなんです?」

アンジェリカ嬢がさっそくキャロルに向かって吠えている。

だがやはりキャロルの反応はない。

アンジェリカ嬢は腕組みをしたままブツブツと文句を続ける。

「全くもう!
学園にも来ない上に塔に引きこもるだけでは飽き足らず殻に籠るなんて。
義姉として恥ずかしくありませんの?
どこまで引き摺りたいのですか。
しっかりなさいまし!
執事に頼まれて半年がかりでクリス兄様にキャロル様の居場所を聞き出した労力を返して下さいませ!」

荒ぶっているアンジェリカ嬢をまあまあと宥め老人がキャロルの前にしゃがむ。

アンジェリカ嬢の話から彼が執事なのだろうとレオンは気が付いた。

「お嬢様、アルブスでございます。」
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