きっともう好きじゃない。


まおちゃんとは、もうずっと会っていない。

電話もメッセージのやり取りもしていない。

わたしは1日外に出ない日なんてざらにあるから、外でまおちゃんと会うこともなかった。


今日もお父さんは帰りが遅いらしく、お母さんより先にご飯を食べる。

ソファのある方へは行かずに離れた距離からテレビを見ていたお母さんが、カレンダーをちらりと見て言う。


「今度の金曜日、お父さんと出かけてくるね」


「夜?」


「そう。だから、ご飯どうする? 作って行ってもいいんだけど」


「いいよ。適当に何か作って食べる」


出かける前に手間かけさせたくないし。

それにしても、お父さんと夜に出かけるなんて、どこかでディナーかな。

結婚記念日は真夏なのに、何か特別なことでもあったのかと聞こうとしたんだけど、先にお母さんが口を開いた。


「須藤さんたちと行くから、その日は眞央くんのご飯も頼みたいんだけど……大丈夫?」


「……ん? リピートアフターミー」


「え? ん? ワンモアプリーズじゃなくて?」


あ、お母さんにつっこまれたらもうおしまいだ。

パソコンを見ている間ずっと横に前髪を止めていたせいで全開のおでこに手を置いて、ふうっと考え込む。


「火曜日、眞央くんの分のご飯も用意してね」


「ああ、うん。ありがとう」


若干の間を置いてもう一度説明してくれてありがとう。

だけど、それ言う前にもうちょっと何か、わたしの動揺を落ち着かせるようなものがほしかった。

まさか本気で間違えたと思って、るのかもしれない。お母さんのことだから。


「火曜日って」


「4日後ね」


「うわあ……」


お母さんに届かないように、小声で叫ぶ。

4日。猶予はたったの4日。

何の猶予だって鼻で笑う薫の姿が頭に浮かぶ。


「あ、それとも3人で食べに行くならお金渡しとくけど……」


「家で食べます」


「そう?」


外食なんて冗談じゃない。

だけどこの場合、家で食べるのとどっちがいいんだろう。

とりあえず、薫にこの日は何が何でも用事を入れないように言わないと。


ご飯は別に問題ない。

あれこれと自己流に手を加えるのが苦手なだけで、レシピを見ればその通りに作れる。

まおちゃんが自分の家でひとりで済ませてくれるのがいちばん良いんだけど、お母さんの口ぶり的に、その日は家に来るように伝えているんだと思う。


止まっていたスプーンを動かして、カシカシと焦げ付いた部分をこさぐ。

金属同士が擦れ合う音は思いのほか部屋に響いて、こんなときばかり目敏いお母さんがわたしのグラタン皿を見る。


「こら、和華。それ薫もやってたよ。どっちが真似してるのか知らないけど、やめてね」


「ご、ごめん」


うそ、わたし、薫と同じことしてた?

これいつもの薫の癖だなあって思ったときにはもうお母さんが見つけてた。

真似じゃなくて、わたしこれしたの一回切りだし、これが初めてなんだけど。

弁解するほどのことじゃないな、と食べ終えたグラタン皿をシンクに置く。

水の張られた薫のグラタン皿はところどころ剥げているけど、わたしのはまだ無事だ。


忘れないうちに、というか忘れられないだろうけど、薫に火曜日の件を先に伝えておこう。


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