きっともう好きじゃない。


くちびるを触れ合わせたまま、まおちゃんがわたしの手を離した。

覆い被さっていた体も壁側に傾けて、まるで逃げろって言ってるみたいに。


浅く、深く、また浅く。

終わりが見えなかった。

乱れた吐息も落ち着いて、順応していくけど、心臓の音は激しくなっていくばかり。


顔を背けるとすぐに追いかけてくちびるを捕われて、どうしたらいいのかわからない。

このわずかな隙間を逃げ出すこと、自由になった手でまおちゃんを突き放すこと、どちらも難しくない。

さっきは抵抗するほど強くなった拘束も、今ならきっと一度だけで事足りる。


もし、このままずっとまおちゃんを受け入れていたら、夜が更けて朝が訪れても、ふたりきりでいられるのかな。

そんな、馬鹿なことを考えた。


また深くなって、浅い口付けが与えられると思った瞬間、まおちゃんはくちびるを完全に離して、わたしの顔の横に顔から突っ伏した。


「和華」


掠れた声は一人言になりたがっているような気がした。

耳を塞いで、聞かずにいてあげたいけど、まおちゃんの話すことぜんぶ、一文字も逃さずに拾いたい。


「ごめん」


何となく、予想していた言葉。

まおちゃんは優しいから、自分を蔑ろにしてでもその優しさを守ろうとするから。

最後はきっと、そう言うってわかってた。


「まおちゃん」


どう声をかけるべきだろう。

『眞央』じゃなくて『まおちゃん』って呼べる姿に戻ったまおちゃんに、怒るべきなのか理由を問い質すべきなのか、大丈夫って伝えるべきなのか、すごく迷った。


まおちゃんの小さな呼吸が耳のそばで響くから、首元に流れた髪を撫でて、首に手を回して、頭をそっと引き寄せて、抱きしめたい。

でも、まおちゃんはそれを望みはしないんだよね。

わたしにまおちゃんが与えた選択肢はひとつだけだ。


力の入らない体を、シーツに肘をついて持ち上げる。

まおちゃんの下から這い出ると、振り向かずに部屋を出た。


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