きっともう好きじゃない。


そのあとも何度か同じ内容を送ったのだけど、無視が続いた末に7時前になって『もうすぐ着く』とメッセージが届いた。

夜ご飯の手伝いをしながらポケットに通知音が鳴るように設定したスマホを入れている時点で、すぐに応答できるようにとは考えていたんだけど。

そんな自分を呆れたらいいのか諦めたらいいのかわからずに、あとは盛り付けるだけの料理をお母さんに任せる。


ゲーム中の薫にタイミングを見計らって近寄ると、用件を伝える前から嫌そうな顔をされた。


「かおる、ちょっと出かけよう」


「なんで」


「見て、これ」


わたしが話すよりも手っ取り早く、篠田さんとのやり取りを画面に表示してスマホを薫に突きつける。

スマホを受け取る代わりにコントローラーを押し付けられて、連打するだけの簡単なボーナスステージをこなしていく。


最後に送られたメッセージがなかったら無視も考えていた。

だって昼間からずっと無視されていたのはわたしだし。

そのメッセージまで読み終えたらしく、薫が思いっきり顔を顰める。


「薫も連れてきていいから。……なんだそれ、俺はおまけか。家来か、護衛か」


「どれでもないよ。ね、おねがい」


薫も連れてきて、で止めていれば良かったのに、余計な一文を付け足してくれたなと、あとでこっそり篠田さんに言っておこう。

とにかく、まず第一は薫について来てもらうことだ。


「100円あげるから」


「俺はガキか」


「200円」


そういう問題じゃない、とツッコミを入れるのも面倒そうな顔。

オークションにしたって安すぎる。

これじゃあ、いくら賭けたら動いてくれるのかわからない。


「じゃあ、さん……」


「わーったよ! 行けばいいんだろ」


随分とはやく折れたことに驚いて目を見開く。

すると、その反応が気に食わなかったのかコントローラーを奪ってさっさとセーブを済ませると、黙ってリビングを出て行った。


「お母さん、ちょっと出かけてくるね」


「今から? もう遅いよ?」


「大丈夫ー。たぶんお父さんと同じくらいになるから、今日はみんなで食べよう」


8時過ぎには帰れると思うって今朝言ってた。

薫もいるし大丈夫、と言うと、なら安心ねって笑うお母さんをひとり残してリビングを出ると、もう既に外に出ているみたいで、玄関に薫はいない。

コートとマフラーをつけて財布だけポケットに入れる。

机の上に置いていたチョコレートが目に入って、一瞬だけ迷ったけど、まおちゃんに渡すはずだった方を反対のポケットに入れた。


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