桜花一片に願いを
 私は知っている。

 花音が自分の気持ちに気付くきっかけを作ったのは、夏目先生だ。先生は、花音を突き放すようなことをした。それさえなければ花音は自分の気持ちに気付かずに、今でも夏目先生と一緒にいたと思う。それがいいか悪いかは、別として。

「――花音のこと、怒ってます?」

 彼女に対してどんな気持ちでいるのかなと、気になっていた。

「いや。でも三田村君はムカつく。逆恨みかも知れないけど、しばらくは嫌いだと思う。最後に会った時も、ほとんど口をきかなかった」

「あら」

 思わず笑ってしまった。意外に大人げのない対応をしたんだな。でも「しばらくは嫌い」ということは、じきに三田村さんを許すのだろう。そもそも、悪いのは三田村さんじゃなくて、にぶちんの花音なんだし。

「正直に言うと、京都に異動になってほっとした。飯倉さんと三田村君に毎週KSJCの練習で会うのは、さすがにきつい」

 私は黙って頷いた。

 夏目先生が花音と三田村さんについて話したのはそれだけだったが、苦しさを味わったことは十分に伝わってきた。でも話してくれて嬉しかった。これで、少しでも夏目先生の気持ちが軽くなったらいい。

 ああそうか。

 私は夏目先生に気持ちを打ち明けて欲しくて、京都まで来てしまったのか。自分が花音をけしかけたことがあったから、こういう結果になったことに責任を感じていたのだろうか。


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