インスタント マリッジ～取り急ぎ結婚ということで～

今までだって会わない日はあったし、たかが１週間ほど一緒に過ごしただけなのに、尚史がそばにいないことに違和感を抱くなんておかしな話だ。

ふとした拍子に尚史の顔がちらつき、ぼんやりしてページをめくる手が止まる。

ゆうべは別れ際に突然キスされたことが衝撃的過ぎて、尚史の唇の感触や体温がやけに鮮明に思い出されて朝方まで眠れなかった。

そのせいで今日は寝不足になり、仕事中に何度もあくびを噛み殺した。

睡魔に襲われそうになるたびにキスした直後の尚史の顔が脳裏をかすめては、焦って目を大きく開き、仕事に集中しようと必死で気持ちを切り替えた。

昔少しだけ付き合っていた人にキスされそうになったときはあんなに怖くて気持ち悪くて全力で拒否したのに、尚史とのキスは驚きとか戸惑いこそあったものの、突き飛ばしたり殴ったりしたくなるような恐怖や不快感はなくて、不思議とイヤな気持ちにはならなかった。

まさか生まれて初めてのキスを尚史とするとは思ってもみなかったから、本当に尚史とこれまで通りの幼馴染みに戻れるのかと言うことが気になる。

たった一度のキスで私の頭の中には、幼馴染みの尚史が私の知らなかった『男』の顔でちらつく。