インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
キヨがニヤニヤしながらそう言うと、尚史は一気にビールを飲み干し、少し呆れた顔でグラスを差し出しておかわりを要求した。

「そんなのするわけないし。で、具体的に俺はどうすればいい?」

「まずはデートだな。おまえらゲームばっかりして、二人で出掛けたりしないだろ?」

「たまに漫画も読むし、コンビニとか“古本(フルモト)”くらいは行く」

“古本”というのは、近所にある“リサイクル古本”のことだ。

中古の本やゲームなどを売っている店で、私も尚史も子どもの頃からしょっちゅうお世話になっている。

「そういうんじゃなくてさ、もっとこう……おしゃれなカフェとか、カップルがデートに選びそうな場所だよ」

「行く必要ないから行ったことない」

「じゃあまずはやっぱりデートだな。テーマパークとか水族館とか海辺の公園とか、とにかくなんでもいいからデートスポットに手ぇ繋いで行ってこい!」

なんてことだ。

いつもは無気力で恋愛にも無関心な尚史の厚意も無下に断れない。

まったく納得いかないけれど、八坂さんとのデートの日まで私と尚史は『仮想カップル』として過ごすことになったらしい。

こんなことで本当に八坂さんとのデートがうまくいくんだろうか。

一抹の不安を抱えつつ、キヨの提案した『尚史とモモの仮想カップル作戦』が始まった。

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