身代わり令嬢に終わらない口づけを
 しばらく夢中で弾いていると、いつのまにかそのハープの音にトラヴェルソの音が重なっていることにローズは気づいた。

(まただわ)

 気づかないふりをして、それからローズは数曲を弾いた。驚いたことに、そのどの曲にもトラヴェルソは合わせてくる。ローズが得意な曲も苦手な曲もちゃんとローズの力量に合わせて吹けるのは、吹き手がかなりの技量を持っている証拠だ。

(優しい音……)

 その音は、ローズの音に沿っているようにも包み込んでいるようにも聴こえた。ローズは、まるで手に手をとってダンスを踊っているような感覚を覚える。

 ふと気づくと、隅にいたソフィーがそわそわとサロンの外を気にしている。彼女も、トラヴェルソの音に気づいたのだろう。

 そのうちソフィーは、たまらなくなったようにサロンの外へと出て行ってしまった。

(ソフィー?)
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