可愛い上司
「……うん」

こぼしまくったコーヒーを拭いている私に、先生は涙目でうなだれて、ネクタイをほどきプチプチとボタンをはずしている。

そういうのもめちゃくちゃ可愛く……ない、ない。

初めのころはネクタイは素直にはずしたものの、コーヒーが跳ねてシミができているシャツを脱ぐのは抵抗された。
恥ずかしい、って。
下シャツ着ているんだから問題ないでしょって無理矢理脱がしたら真っ赤になって。

あれはあれですごくかわい……なんでもない。

「はい、替えのネクタイとシャツです」

「ありがとう」

ちょっと照れた笑顔で受け取った先生の目には、涙が光っていて胸がきゅんと音を立てた……りしない。
しないとも。

替えは、いつも何組か用意している。
ネクタイをコーヒーにボチャン、だけじゃなく、お昼にうどんを食べて浸してくることもあるから。

「じゃあ僕、授業にいってくるね」
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