ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
プロローグ


「婚約を、破棄したいの」


胃の中の重苦しさを吐き出すように言う。
彼が、息を飲む気配がした。

「……僕もジョークは好きだけどね。そういう笑えないブラックな奴は、得意じゃな――」
「冗談じゃない。本気」
乾いた笑いに乗せた言葉を、遮るように言って。
続く沈黙に耐えきれず、目を落とす。

ひどく喉が渇いていた。
何度も唇を舌で湿らせて。
この地獄のような時間が早く終わりますようにと、神様に祈った。

「……なら、なおさら笑えないね」

白く、節の浮かび上がった彼のこぶしが見えた。

「何があった? 僕の何が気に入らない?」

そうじゃない。
そうじゃなくて。

こんなに好きなのに。誰より愛してるのに。

逃げだしたい気持ちを押し隠すように後ずさって、早口で言う。

「好きな人がいるの。だから、あなたとは結婚できない」

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