ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
2. 私のフィアンセ~飛鳥side

私、真杉飛鳥(ますぎあすか)のフィアンセは、王子である。ルックスが。


――ねえねえ、お店の外、ものすっごくかっこいいガイジンさんがいるよ!
――映画俳優みたい! 
――っていうか、王子様みたいじゃない!?
――あー、わかる!! 王子だ王子っ!

混雑したパティスリーで並んで、ようやくお目当てのプリンを手に入れ。
やれやれと息をついたところで飛び込んできた、そんな黄色い声。

引っ張られるように振り返ると、女子たちがお店の窓に貼りついて外を眺めてる。
まさか、と嫌な予感が頭をかすめた。

そのまま彼女たちの目線を追っていけば――案の定。
店舗の前に設けられたプロムナード、並んだベンチの一つ。

ジーンズに包まれた長い足を組んで座る男性に行き当たる。

ウェーブがかった、柔らかな金髪。
宝石みたいに煌く、翡翠色の双眸。
ダウンジャケットの下にのぞく均整の取れた体躯は、よく鍛えられて引き締まり……。

カジュアルスタイルのくせに、その人はとても洗練された空気をまとっていて。
重たい灰色の冬空でさえ、彼が加わると映画のワンシーンみたいな奥深さを感じてしまうんだもの。
まるでファンタジーの世界から抜け出てきたような、“白皙の美貌”を地で行く王子サマ。

彼が私のフィアンセ、ライアン・リー……だったりするんだから。
ほんと、人生って何が起こるかわからない。

32年生きてきて、今くらいそれを実感してる時はないと思う。

お肌の曲がり角もとうに過ぎた三十路女子、仕事にやりがいを感じてはいたものの、恋愛からは遠ざかるばかりの日々。
現実ってマンガみたいにはいかないわよね、なんて寂しくもリアルな現実にも慣れてしまい。
このままおひとり様、っていう人生もありかもしれないと考え始めた矢先のことだった。彼と出会ったのは。

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