『少年時代』
『子は鎹(かすがい)にあらず』
今日、梅雨が明けた。

庭で雨ざらしになっていた自転車を眺めて康晴が母親に言う。


「ねえ、新しいの買って――」


しかし台所に立ち尽くす母親は小刻みに肩を震わすばかりで返事をしない。
 
ハナクソをほじりながら今度、康晴は居間に胡坐する父親に言う。


「ねえ、新しい自転車買ってってばよお」


しかし父親も返事をしない。

むっつりと訝しい表情のまま新聞を睨み、彼もまた何も言わないのである。

背中を向けたままお互いが沈黙する両親の狭間に立ち、康晴は唇を尖らせる。


「またふうふケンカかよお……」


呟いてなにを思ったか、居間と台所を隔てる廊下に折りたたみ式の小テーブルを持ち出してきた。


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