ラブレター【完】
4:『雨だれ』さんが好きなのに

体育館に所狭しと並べられたパイプ椅子。

普段一体どこにしまってあるんだろう、そして誰がこの全校生徒分の椅子を並べたんだろうか。

そんなことを漠然と思いながら、自分達のクラスのエリアに着席した。

今日は合唱コンクール。

正確には音楽コンクールらしいけれど。

全校生徒が順々にみな椅子に座って、体育館の中はガヤガヤと騒がしくなった。

「静かにしてください」

恐らく生徒副会長である女子生徒の声が、マイク越しに響いた。

一瞬しーんと静まる会場。

でも少しすると、控えめにだけれどあちこちで、黄色い歓声が上がった。

生徒会長の星川先輩が壇上に立ったのだ。

「今から音楽コンクールを始めまーす。どのクラスも悔いがないように、優勝目指して精一杯パフォーマンスしてくださいね」

少し遠目でもわかる、思わず見とれるほど整った甘いマスクと、それに負けないくらいの甘い綺麗な声。

挨拶を終えた先輩は、すらりと長い脚で颯爽と舞台を降りた。

「やっぱかっこいいねえ、星川先輩」

わたしの隣に座っているミカちゃんが、ため息混じりに言った。

ミカちゃんは星川先輩の大ファンなのだ。

「そうだね、ほんと素敵だよね」

本当にあんなカッコいい人が『雨だれ』さんなのだろうか?

あの人が、わたしを好き?

全然ぴんと来ない。
< 35 / 90 >

この作品をシェア

pagetop