ラブレター【完】

結局、いい方法も思い付かないまま1日が終わって、清掃の時間になった。

うちの中学では、掃除の間はいつもクラシックが流れるけれど、誰の意向なのか、なぜかピアノ曲しか流れない。

こんなのわかるのはピアノ習っている人だけでしょう、と常々思う。

それに、選曲も微妙だ。

今日の1曲目はドビュッシーの月の光。

選曲、絶対におかしい。

ゆったりとした曲に引きずられて、箒を動かす手も心無しかゆっくりになっていく。

そして眠たくて仕方なくなる。

あ、眠いのはわたしが寝不足のせいか。

「あ!」

月の光の次に流れ始めた曲に、わたしは思わず声を上げた。

ショパンの雨だれのプレリュードだったからだ。

思わず床を掃く手が止まって、スピーカーを見上げた。

何の意味もないのに、つい音の出ている所を見てしまうのだから不思議だ。

「この曲、好きなの?」

そんなわたしに、窓のさんを拭いていた透くんが声をかけた。

「うん。……あ、そうだ。透くん」

「なに?」

「透くん、この曲、知ってる?」

少しドキドキしながら、わたしは尋ねた。

透くんが『雨だれ』さんなら、絶対に知っているはず。

「これ?雨だれでしょ?いい曲だよね」

透くんはさらっと答えた。

知っていたのは博識だから?それとも『雨だれ』さんだから?

「へえ、この曲、『あまだれ』っつーの?」

近くの床を雑巾がけしていたともちゃんが、口を挟んだ。

「そうだけど、なんで?」

「……え、なんで?………あ、最近どっかで聴いて耳に残ってたから」

「そうなんだ」

雨だれというタイトルすら知らなかったともちゃんは、絶対に『雨だれ』さんじゃない。

そんなことは最初からわかっている。

わざわざ思い知らせてくれなくていい。
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