ラブレター【完】

6月の終わり頃、体育で水泳の授業が始まった。

俺は水泳部だから、みんなよりひとあし先に泳いでたけど、吹奏楽部の理奈は今年初プール。

「ちゃんとおよげるかなあ」なんて言ってた理奈は、ひとたびプールに入れば、1年のブランクなんてないみたいに伸び伸びと泳いだ。

まさしく水を得た魚だ。

スイミング当時、理奈は泳ぐことが大好きなくせに練習が大嫌いで、すぐに「飽きたー」と言って水面にぽっかり浮かんでサボっていた。

なのに理奈は、同年代のスイミング仲間の誰よりも速かった。

当時、50メートル背泳ぎの理奈のベストタイムは、俺よりも速かった。

そんな理奈が、中学で吹奏楽部に入った時は本当にびっくりしたけど、合唱コンクールの伴奏を引き受けた理奈のピアノを聴いて、なんか納得した。

理奈のピアノがすごかったからだ。

ピアノなんてわかんないけど、理奈のピアノは、理奈の泳ぎと似てる気がした。

なんていうか……すごく自由に、すごく楽しそうに弾く。

だから、きっと、理奈は水泳と同じくらい音楽の才能があって、水泳と同じくらい音楽が好きなんだろうな、と思ったんだ。
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