最上階ロマンス
「これ、結婚式の招待状か何か…?」

と、呟く…と同時に、その封筒をひっくり返す…、封は開けられていない…

そこに書かれた…差し出し人の名前に、微かに動揺した…【成宮 悠】と書かれた…その名…

実咲は、瞬時に…両目を見開いた…

「成宮くん!」
《わ~! 成宮くんだ!

て、これ、成宮くんからの結婚式の招待状か…、結婚するんだ…》

実咲の脳裏には、高校生時代の悠の姿が思い出されていた…

「……」
《綺麗な顔立ちで、女の子に人気あったんだよね~

どんな感じになってるのかな?

大人っぽく…なってるんだろうな…。。


結婚するんだ。。どんな人とだろ…?》

持ち前の好奇心がうずきまくる…。。が、封があいていない招待状を覗くわけにもいかない…


が。。

次第に、その気持ちも…冷ややかなモノへと変わっていく…

「…いいなぁ…っ」

自分には、それすらも叶えられないかもしれない…

信じていた恋人に、有り金を全て奪われ…、借金の保証人にまでされていたのだ…

結婚なんて、夢のまた夢…だ。。


運良く…、琢磨に【ウチに来たら?】と、言われたが…それも、いつまで甘えていいのかも分からない…

何よりも…、当分の間…彼の奥さんのフリをするだけ…、彼に恋人が出来たり、別の人と結婚することになったら…出ていくしかない…

ましてや、学生時代に好きだったなんて…言えるはずもない…

それと、共に…思い出したくもない過去の産物だ。。


実咲は、重苦しいため息をひとつ…ついて、再び…ソファの上に横たわった…

「……っ」
《とりあえず…、

早く…、自立出来るように…出ていかないとな…っ》

次第に…、瞼が重たくなりつつあった…

琢磨の帰りを待つつもりでいたのに…と、睡魔に襲われながらも…、眠らないようにしていたが…。。


安心感や…日頃の疲労感もあって…か、そのまま眠ってしまっていた…


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「…寝てる…っ」

帰宅した琢磨…、灯りのついた部屋…のソファに横たわり…スヤスヤと寝息をたてている実咲に、少し呆れ顔で呟く…

ネクタイを緩め、まじまじと…その寝顔を見ているウチに、少しずつ…穏やかな表情へと変わっていく…

実咲の頬に降りかかる髪を指先で払い除け…、柔らかな頬に触れ…


「無防備すぎだろ…っ?」

そぅ、呟いた…


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


日の陽射しに…、ゆっくり…と、瞼を開けた…

懐かしい…夢を見ていた。。遠い…初恋の想い出…

「…あれ…?」
《ここ、どこ…?》

見慣れない天井…、今までのアパートは築30年近い…オンボロなアパートだった…

それでも、大好きな人と暮らしていたのだから…、それだけでも幸せだった…と、今になって言える…


が。。ここは、真っ白な天井…、少し天井の高さが今までと明らかに違う…

「起きた?」

その、耳元で聞こえた…男性の声に…、恐る恐る…その声の方に視線を向ける…

今まで、隣りで寝起きしていた…恋人の声と明らかに違う…

その、鼻先…数センチ…の所にあった…初恋の人の顔に…思わず…身体が跳ね上がる…。。それと、同時に悲鳴に近い声まで出そうになった…

「っえ? あれ? …漆原くん…? 何故?」

「【何故?】って…、昨日からウチに泊まってるじゃん!」

少しずつ…、記憶が蘇ってきた…。。《あぁ、そうだ。私…、昨日…》と、ことの顛末を思い出した…





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