最上階ロマンス

6

「お前、なに? その量」

その、頭の上から聞こえた声に、実咲は、その声が聞こえた方を見上げる…

「…あ…、終わったの?」

目の前の席に、腰を下ろした琢磨…

実咲が、取り分けたマンゴーの皿を指さし…

「これ、凄い量じゃね? 好きなの?」

「あ、うん。」

琢磨の顔を見ると…、言いようのない怒りにも似た気持ちが湧き上がりそぅだった…

実咲は、視線を逸らしながら…

実咲は、珈琲のみを持ってきていた琢磨に…

「何か、持ってくる?」

「いや、いい。珈琲だけで。この後、仕事行くから…」

と、実咲が持ってきたマンゴーを口にする…

「ちょっと! それ、あたしの…」

「これだけあるんだから、いいだろ? 1つくらい」

そぅ言い返されると…、自分が子どものようで…何も言い返せなくなった…

実咲は、最後に取っておいたマンゴーをフォークで刺し…、その様子を眺めていてる琢磨と視線がぶつかった…

「お前ってさ、幸せそうな顔して食べるよな?」

「…っえ? なに、それ?」
《人が食べるとこを見てるなんて…、なんて悪趣味なっ!》

「いゃ…。
ウチなんて、親父が揃わないと…メシにもありつけなかったし。
物音1つ立てるな!って言われたから。
食事の時間は、会話ひとつ無い…」

「それ…は…、凄いねっ」
《それは、生き地獄に近いかも?

ウチは、楽しかったな…。。2人とも、食べることが好きだったし…

会話が尽きること、なかった…》


実咲は、思わず…亡くなった両親のことを思い出した…

これまで、思い出さないように…してきたつもりだったのに…


「あ、さっき!
凪子さん、来てたょ。大学があるって、さっき帰っちゃったけど」
《話題、変えなきゃ…っ!

私、この人のことでムカついてたのに…、フルーツやデザートのケーキ食べてたら…忘れちゃいそうだったゎっ!》

実咲の言葉に、琢磨は【ふぅん】と、言ったきり…いくつ目かのマンゴーを口にする…。。琢磨の反応に、実咲は【無反応?】と、思ってしまったが尚も続けた。。

「…【お友達になって】って、言われたから。LINE交換したの…
可愛いよね? 天使みたい…」

と、わざと鎌をかけるような言い方と、悪意を含んだ笑顔をわざとしてみせた…

「ふぅん。ま、いいんじゃない?」

と、琢磨の方は興味なさげ…に、それだけ言った…

その、琢磨の反応に実咲は少しイラ付きながら…

「……っ」
《なに、それ?

あんな純粋な子を騙してて…、良心がないの?》

と、微かに頬を引き攣らせながら…

「彼女、付き合ってる人がいるのかな?」

その、実咲の言葉に…琢磨は…

「さぁ? 俺が知る訳、ないだろ?」

「……っ!」
《な…、なぁーにを言ってんだ?

この男は…っ?


あの子が、好きなのは…アンタなのよ…っ!》


と、口が滑りそう…になった所を、慌てて自分で制止し…

「……っ」
《ヤバい…。黙ってて…って、言われてたんだった…

凪子さんのお父さん、厳しい…とかで…、結婚した男性と、そういう関係だった…ってのを知るワケにはいかない…って、言ってたな…

つまりは、結婚前に…他の男性と付き合うの、反対されてる…って、ことなのね?》


「じゃ、俺、荷物取りに戻ってから仕事行くけど…。お前は、ソレ、食べてから…だろ?」

と、腰を上げた琢磨…まだ、実咲の目の前には、フルーツが乗った皿がある…

「あ、うん。」

【もぅ、行くの?】と、思った瞬間…琢磨は、実咲の頬にキスをした…

それも、周りへのカモフラージュ…ということは、実咲も解っていたが…、微かな動揺が隠せない…


「じゃ、仲良くなるのはいいけど。せいぜい…バレないように…ね…っ!」

そぅ、実咲の耳元で囁いた…

瞬時に、耳元まで赤くなった実咲…琢磨は、その反応に笑いかける…

「行ってらっしゃい!」
《あ~…っ!

もぉっ! こっの…悪党がっ!

ホント! ムカつくっ!》

琢磨は、実咲に軽く手を振り…颯爽とラウンジを出ていく…

その、後ろ姿を見送りながら…。。実咲は、琢磨が先ほど言っていた…【家族団欒】について、思い出していた…

「……っ」
《家族…、あんまり仲良くないのかな? 漆原くんの家…

お父さん、厳しい人…って言うのは、彼の口から何度か出てるけど。。


なんか、そういう話しをしてくれるなんて…、意外…っ》

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