恋愛境界線

先生は…


扉をノックして職員室に入ると、見渡しても先生の姿は見当たらない。

ホームルームを終えてそんなに時間が経っていないときは、まだ職員室のほうにいるはず。
その予想は外れたようだ。

「どうした、赤坂」

先生の隣の席の山西先生が、ブルーのマグカップで珈琲を嗜みながら、私に訊ねる。

「本郷先生ってどちらにいますか」

「ああ…社会科準備室じゃないか?最近また職員室で見かける頻度が減ったから」

「そう…なんですか」


山西先生の言葉が針のようにちくっと胸に刺さる。


「本当、婚約者が亡くなってから、気持ちの浮き沈みが激しいなあ…
それまでは本当に明るい人だったのに。
…あ。こんなこと俺が言ってたって言わないでくれよ」

「あはは…はい」

山西先生の言葉に、心の奥に押し込んでいた胸のもやもやが、再び出現して大きくなる。






先生…
そうなってしまったのは、私のせい?




< 129 / 230 >

この作品をシェア

pagetop