恋愛境界線
「ごめんな」


弱々しい声で、先生はそう言う。


「僕は、雪花を傷つけてばっかりだな」


さっきまで不機嫌な顔をしていたのに、急にそんなしおらしいこと言わないでよ。
ずるいよ。


「…兄貴の言った通りだった。僕は子供すぎるな。雪花より、ずいぶん年上なのに」



どこかで兄弟の会話を交わす機会があったのだろう。
そのときに私と先生が付き合っていたことを言い、私と隼人さんが付き合い始めたことを知ったのだろう。



「雪花が兄貴を選んだのは、当然だなって実感したよ。
兄貴なら絶対幸せにしてくれる。

…だから、幸せにな」





言葉が、何も出てこない。






そんなこと、言われるなんて思わなかった。




涙は止まることなく溢れてくる。

この涙が、さっきまでの感情からくる涙とは違うことだけはわかる。




先生のことで流す涙は、もう今日で最後にしよう。
いま、そう決めた。




私は先生の背中に頷いて深くお辞儀をして、社会科準備室を出る。
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