恋愛境界線
「先生、本当に雪花を代わりにしてたのかよ!?」


奏が声を荒げて、先生の胸ぐらを掴む。
そんな奏の質問に対しても何も答えない。


「本郷先生が雪花のことを本気で好きで、覚悟を感じたから俺は諦めたんだよ!
そんな理由…残酷すぎるだろ」


奏の荒げた声が、だんだんと弱々しくなっていく。
今にも泣きそうな声で、奏は右手の拳を振り上げる。
そんな奏の姿を見て、私はその腕を掴んで止める。


「奏っ!やめて」


「止めるなよ。さっき約束しただろ、本当だったらぶん殴ってやるって」


「もう…いいの。
殴ったって、この事実が変わる訳じゃないんだから」


「でも…!」


「行こう、奏」


奏は戸惑いつつも、右手の拳をおろす。
そのまま私は掴んだ奏の腕を引っ張って、
先生の横を通りすぎる。
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