きみはお菓子よりもあまい
 隣の調理台で、一人で黙々と調理していた窪田くんがこっちを見てつぶやいた。反論の余地もない。

 元々高校生になるまで台所に立ったこともなかったわたしは、友達の誘いで入部を決めた。
 マイペースに楽しく過ごせている。
 …………失敗さえしなければ。

「メレンゲくらい。たててくださいよ」
「力が……なかなか」
 電動の泡立て器が欲しいところだが弱小料理部にそんな高価なものが買える予算はまわってこない。
「力より。テクニック不足ですね」
「へ?」
 わたしの手からあっさりボウルを取り上げると、泡立て器をまわし始めた。
 うわー。あんまり近くから気にして観察したことなかったけど。サラサラの黒髪。長いまつげ。小さな顔で、みんなが騒ぐのも無理ない美少年だなぁ。
 口の悪さと外見の儚さのギャップに呆然としていると、
「ちゃんと見ててください」
 叱られた。
「俺のこと」
「……あ、うん」
 顔じゃなくて。手元、見なきゃ。

 今までなんとなくまわしていた泡立て器が。
「え…………すごい。まだ一分くらいなのに」
「これが普通です」
 魔法の道具のようにみえた。
「いやいや。普通じゃないよ!? 手首もげそうになってたのに、そんなに簡単に……」
「ほんとセンパイは。どんくさいですね」
「へ?」
 近づいてきた窪田くんが――
「だからこそ。目が離せないんスけど」
 そう耳打ちしてきて。

 返されたボウルを、うっかり落としそうになった。
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