名もない詩集

どうしてなの?

どうしてあなたなの?


あの日は
春休みで
うららかな
陽射しの中
職員室に呼ばれた
受話器を取ったら
あなたの
死の知らせだった

泣き崩れた私を
先生が
抱きかかえて
付き添われて帰った

嘘でしょう

きっと何かの
間違いだから

どうしてなの?

どうしてあなたなの?

眠ったふりして
また私を
驚かそうとしてるんだよね

私はそう言った

あなたの顔を
覗きこんで
揺さぶった

あなたの頬は冷たかった

私はあなたに
すがるようにして
いつまでも泣いて
夜まで帰れなかった

次の晴れた朝
あなたを
乗せた車が
ナインに見送られて
クラクションを鳴らした

私は制服で
青い空を見てた

あなたを
死なせた野球が
それからずっと
許せなかった

どうしてなの?
どうして私じゃないの?

どうしてあなたなの?


月日は流れ
誰もが
あなたを忘れた

私は一日も
忘れないのに

そんなある日
ナインの一人に
出会った

あなたの話をした

二人涙ぐみながら

そして
あなたが煙になって
空に昇った
あの日の
約束が
やっと果たされた
あの甲子園優勝の試合

あなたの写真と見た

何故なの?
あの日
もう許したはず

もう
あなたの愛した野球を
もう憎まないって

だけど
今でも
涙が出るの

あなたのお母さん以外に
一人位
昨日のように
いつまでも
あなたを覚えていて
構わないでしょう

私のラブレターは
まだ部屋にありますか

今まで
辛い時
あなたに
語りかけて
頑張ってこれた

あなたが
大好きだったから

私達の
あの日々が
眩しかったから

忘れたいなんて
思った日は
なかった

いつか私も
あなたのいる世界に
行った時
また会えるといいな

また冗談言ったり
ケンカしたり
仲直りがしたい

あれは
私が16で
あなたが16になる10日前の
春浅い
よく晴れた日だった

二人は伝説になった


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