枯れた涙にさようなら。


俺が中学二年生の時から、お世話になっている家庭教師がいた。

その人はとても綺麗で、名前にぴったりな人だった。
年が離れている分とても大人びているように見えて、初めて会った時にはもうきっと心を奪われていたんだと、今は思う。

けどそれは、不毛な恋。

さっちゃんって俺の兄貴の名前を呼ぶ彼女は、とても幸せそうだったから。

「夏生くん、ここはこうじゃなくて、もう少し具体的な例をあげた方がもっと分かりやすいかも」

最初、兄貴も良さそうな女の子もらえて良かったなと思っていた。自分の兄貴のことをこう言うのもなんだけど、それなりに顔は整っているから相応の子がいて良かった、なんて何様気分か知らないけれど安心していた気がする。

それが恋心に変わっていたことに気がついたのは、いつだったんだろう。
兄貴とデートに行ってるのも、いちゃいちゃしてるのも、気になって仕方がなくなったのは、いつだったっけ。始めは、笑顔でいってらっしゃいを言っていた筈なのに。

いつから二人の姿を見ることに胸を痛み出したのか、俺には思い出したくない事だった。

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