もうひとりの極上御曹司

「来年か……。先のことなんてわからないし。私、どうなってるのかな」

千春はぽつりと呟き、窓の向こうを流れる景色をぼんやりと見た。

十月下旬の夕焼けは寂しげで、思いがけず気持ちが落ちそうになる。

ダメだダメだ、先のことなど考えてはいけない。

まずは今のことだけを考えなければと、自分に言い聞かせる。

バイトのあとで兄の駿平に夕食をごちそうしてもらうことだけを考える。

弁護士というお堅い職業のイメージに反して明るく能天気な兄の駿平。

十歳年上の三十歳とは思えない若々しさ、というよりもまるでやんちゃな少年のような見た目は、千春だけでなく誰をも和ませる。

十二年前、事故で両親が亡くなってからというもの、親代わりとして千春を愛し育てている。

両親が亡くなった当時駿平は十八歳。

弁護士を目指して大学の法学部に入学し、両親が遺してくれた貯金と保険金で学費と生活費をまかないながら卒業し、無事に司法試験も突破。

今は大手の法律事務所で弁護士として働いている。

「あ、そうだ」

クリーニングに出していた駿平のスーツを取りに行かなければならないことを思い出した。

駿平は職業柄スーツを着る機会が多く、先週まとめて千春がクリーニングに出したのだ。

二十一時に閉店だから食事は無理かもしれないとがっかりする。

こんなとき、千春を一生懸命育ててくれた駿平には申し訳ないが、早く結婚してくれればいいのに、と思う。



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