愛は貫くためにある
「びっくりしてしてしまったんです」
「びっくりした?」
拓真は腰が抜けそうになった。
「怖かったんじゃなくて?」
「ドキドキして…びっくりしてしまったんです。混乱してしまって、気づいたら…」
「あいつと付き合ってるから、他の男には触れられたくないって思ったんじゃないか?」
違います、と麗蘭が言った。
「わたしずっと、拓真さんのことが忘れられなくて…」
「麗蘭」
麗蘭は、精一杯背伸びをして拓真に小さい声で囁いた。

「わたし、ずっと待ってたんですよ。待ちくたびれたんですから、構ってください。十年も待ったんですから…」
「れ、麗蘭…」
拓真はごくりと唾を飲み込んだ。
「嬉しいです。拓真さんが、迎えに来てくださって。わたしはこの時を、ずっと待ってたんです。きっと、拓真さんは約束を守ってくださるって」
「もし、違ったらどうすんだよ」
「そんなことありえません。だって…拓真さん本気だったんですもの」
ああ、麗蘭には敵わない、と拓真は思った。自分のことをこんなに待っていてくれていたなんて、と拓真は思った。
「約束破らないでください」
「麗蘭…」
麗蘭が拓真の声に顔を上げた。
「拓真さん?どうしたんです…っ!」
拓真は、麗蘭の唇を塞いだ。
優しく、何度も何度も。
麗蘭は目を見開いたが、照れながら目を閉じた。
拓真のごつごつとした手が、麗蘭の頬を包み込む。
「ん…っ、んん、ん、…」
麗蘭は目を静かに開け、拓真の手首を掴んだ。
「麗蘭……」
拓真の熱の篭った声が、麗蘭の耳を刺激した。
「拓真さん…」
「本当にいいのか?もう後戻りはできないぞ」
麗蘭は微笑みながら頷いた。
「い、いいのか、本当に。僕は堅気になったとはいえ、元ヤクザの若頭なんだぞ?」
「そんなこと、関係ありません。目の前にいるのは、堅気になって素敵な男性になった…高木 拓真さんです…」
拓真は麗蘭の頬から手を離し、麗蘭の手を取って優しく握った。
「麗蘭。…改めて言う。迎えに来たぞ」
「拓真さん…」
拓真が強く麗蘭の手を握ると、麗蘭は拓真から手を離した。
「麗蘭?」
「んう、痛い」
「あ、痛かったか?ごめん」
拓真は、優しく麗蘭の右手を擦ってから手を絡めた。

「僕の、婚約者になってくれないか。…久しぶりに会ってこんなことを言われるのは急だし、戸惑うかもしれないけど、それくらい本気。婚約を前提に付き合って欲しい」

麗蘭はにっこりと拓真を見つめながら言った。
「よろしくお願いします。若さま」
「だから…もう若さまじゃねえよ。その呼び方やめろよ?」
「いやです、若さま」
「こら!…そんなこと言うんだったら…」
拓真は麗蘭の顎をくい、と持ち上げた。
「だ、だめです。わたしの心臓が持ちません。もう、キスはだめ」
「…若さま呼びをやめるんなら、今日はやめる」
「わ、わかりました…!」
拓真は笑った。麗蘭も笑った。
十年前の二人の不確かな約束は、十年後の今、こうやって果たされたのだ。

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