毎日、失恋。
「今日もご馳走様でした。とっても美味しかったです。」

キッチンで食器を洗いながら隣でお皿を拭いてくれる八神くんのお母さんにお礼を言う。

「そう?いつも通りのメニューだけどね。でも大勢で食べると美味しいでしょう?」

「はい、やっぱりご飯は大勢の方が美味しいですね。」

お姉ちゃんが働きだしてからはほとんど一人で食べてた私はしみじみ思う。

「本当はお姉さん達がお留守の間、うちに泊めてあげたいんだけどなんせ…我が家には危険な野生児がいるからね。しかも二人。」

「あはは…」と、お母さんの言葉に苦笑いしかでない。

そう、お母さんが言う二人の野生児。

一人はもちろん八神くんの事を言ってるのは分かる。

そしてもう一人…

「佐奈、ねぇ、やっぱ泊まってけば?俺のベッドで一緒に寝ようよ?」

「えっ…それはちょっと…」

「聡《さとし》っ、お前、調子に乗るなっ。佐奈は兄ちゃんの彼女だぞ。」

二人目の野生児とは聡《さとし》くんのこと。

明《めい》ちゃんと双子の聡《さとし》くんは今、中学二年生。

思春期の真っ只中。

けれど、八神くんとは違って思春期特有の反抗期のようなものは全くなく、どちらかと言えばチャラい…ではなく、えっと…以前にもまして明るいキャラとなっていた。

「兄ちゃんなんてもうおっさんじゃん。俺はこれからまだまだ成長するよ。そしたら佐奈、きっと俺の虜になる。」

「ぷはっ、虜って…」

つい吹き出してしまった。

「はいはい、お子ちゃまは優しいお兄ちゃんがゲームの相手をしてあげるからーーーさっさとこっちにこいっ!」

「いてっ、兄ちゃん耳引っ張るなよ。くそっ、もうちょい俺の背が伸びれば兄ちゃんなんて…」

「はいはい、背伸びてからなんとでも言え。それと佐奈って呼び捨てにするな。さんをつけろ、さんを。」

「うわっ、セコっ。あっ、そっか。俺は聡《さとし》くんって名前で呼ばれるけど兄ちゃん未だ八神くんだもんなぁ。そっか、そっか、妬けちゃうよなぁ。」

「うるせぇっ。」

「いってぇ、母さん兄ちゃんが頭叩いたぁ。」

私がいるキッチンカウンター越しに八神くんと聡《さとし》くんが賑やかにやっているのを見ているとつい顔が緩む。

楽しいなぁ。

私もここに住んだら毎日、こんな感じなのかなぁ。

って、一緒に住むだなんて何考えてんのよ。

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