残酷なこの世界は私に愛を教えた
――ガチャ
再び同じ部屋のドアを開けると、彼は私を見て目を細めた。
「俺好みにするの上手いなあ、お前」
早くも少しだけ酔っているらしい。
この格好が彼の好み? 当たり前だ。
『ほら、こんな格好だよ。次はしてこいよ』
まだ化粧も知らない私に彼が写真を渡したのだ。
当時は何も分からなかった。
でも、よく考えてみればそれは当然水商売の女性だった訳で。
服は毎回彼が持ってきた。
ああ、そうだった。
嫌で嫌で仕方なかった。
忘れていた。
私はいつ、この感情を捨てたのだろう。
そして何故、取り戻してしまったのだろう。
「ほら、座れ」
彼はグラスを差し出しながら言う。
勿論私はその通りにするしかない。
彼の隣に座って彼の手の中のグラスに酒を注ぐ。
特別な会話があるわけではない。
彼はテレビの中の芸能人と話しているだけ。
そして私は隣に居るだけ。
触れられることも無い。
むしろ、私の肩にでも腕を回してくれた方がましだっただろうか?
……いや、そんなことあるわけ無い。何を馬鹿なことを。
……何も感じずに居られたあの頃に戻りたい。
ただ単調に日々を過ごしていたあの頃に。