残酷なこの世界は私に愛を教えた



「……壮ちゃんさ、いっつもある人の話をするんだよね」



「ある人?」




「いつも楽しそうに話すんだよ。早くその人と遊びたい、会いたいって。3歳年上なんだけど、1番の仲良しなんだって」



「えっ……」




「きっと、ううん、絶対隼人のことだよね。その人が居るから生きていたいって思えるんだって言ってた。憧れの人なんだ、って」


隼人は、嬉しそうに、悲しそうに曖昧に表情筋を動かした。



「まだ続きがあって」



「続き?」




「『その人は僕のヒーローだから、ずっとそのままでいてほしいんだ。必要以上に悲しいことや辛いことを見たり聞いたりして、変わらないで欲しい。大人になっても、他の人に生きる楽しさを教え続けて欲しい。僕にしてくれたように』って。『それに、その人といる時間はとても楽しいから、悲しいことを話すような気分にならないんだ。その人が悲しむ姿を見るくらいなら、楽しい時間を過ごしていたい』って」




壮ちゃんが、まるでこうなることを予期していたかのように私に託した言葉を隼人に伝える。




「壮介……」



隼人の声が僅かに震えたのを私の耳は聞き逃さなかった。



「隼人は、壮ちゃんを確かに救ったんだよ」



静かに、一筋の涙が隼人の頬を伝った。
それは感情を消化し終わった後の涙。
とても美しいものだった。



何年もかけて、本当の意味で二人は向き合えたのだろう、なんてぼんやり思った。




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