残酷なこの世界は私に愛を教えた



――ぱく



「どう? 上手い?」



どうって言われても味なんて分かんないよ……!



「お、美味しい……よ? 多分……」



「ははっ、多分って何だよ?」



「もー、速く食べて!」



「はいはい」



何か今日隼人変だよね!? こんなにチャラく無かったよね? もっと何て言うか……誠実というかそんなイメージだったんだけど!?




「何言ってんの? 俺は誠実だよ?」



「えっ」



え、エスパー!?



「思ってること顔に出過ぎ。俺が他の人と仲良くしてるとこ見たことある?」



「無い」



「だろ?」



「うん」



隼人にとって私は仲が良い友人ってことで良いんだよね? 今だけは、思い上がってもいいよね?


何だか心臓か軽くなってふわふわと空を飛べそうな気がした。






「何飲みたい?」

「んー、何でもいいかなあ?」




「どれが好き?」

「どれでも大丈夫だよ」





「じゃあ、どこ行こうか?」

「どこでもいいよ」



そう言うと、隼人の足が止まった。

私には突然に感じたけれど、彼にとってはそうでは無かったのかも知れない。



「ねえ、愛珠。愛珠に意思は無いの?」



決して責め立てる口調ではない。

出来るだけ感情を押し殺した声だ。それが逆に冷たく聞こえて、何だか少し怖かった。



「え?」



「もっと自分の意見言っていいんだよ?」



「自分の意見……?」



「ちゃんと言葉にしてくれないと俺も分かんないんだけど?」



「ご、ごめ……」



「あーー悪い。ちょっとトイレ行ってくるわ」




去っていく彼の背中に、急に距離を感じた。



隼人の口調は決してキツく無かったし、今までの私なら誰に何を言われようと気にもしなかっただろう。


なのにどうして、こんなに不安になるんだろう。



……隼人に、嫌われたく無いから?




それでも私をこちら側に引き留める声は。




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