涙のち、銃声
「しゃ・・社長!
きょ・・今日は・・あ・・ありがとうございやした!
どうぞ・・お、俺のお酌・・受け取って下さい・・!」
「タク坊・・その“社長”っていうのは小っ恥ずかしいからやめろ。」
「で・・でも・・。」
「他の連中とおんなじように、
俺の事は“おやっさん”と呼べ!」
「・・・ひゃ・・ひゃい!!」
「ガハハハ!
返事ぐらい噛まずにちゃんと言え!!
アズサ、こいつ今日からウチで働くタクヤ。タク坊って呼んでやれ。」
「うん!タク坊がんばれ~!」
「きょ・・恐縮っす!!!」
幼い頃から私の記憶にあったのは・・
大きな機械と、男の子が喜びそうな乗り物を操るお父ちゃん。
そして、お父ちゃんの元で毎日汗だくになりながら働く従業員の人達。
この時の私は何も知らなかった。
ただそれが当たり前だと思っていた。
私たち家族と毎晩食事を一緒にして、
ドンチャン騒ぎをする従業員の人達。
お仕事場の一角に設けられた、私の部屋より何十倍も広い場所で寝泊まりする従業員の人達。
私自身がもう少し大人になってから分かった。
元暴走族。元犯罪者。
中卒。高校退学。
九九が全部言えない。
漢字がほとんど読めない。
その人達が世間から“クズ”呼ばわりされ、
行く当てが無かった事を。
お父ちゃんはそんな人達を無条件で雇ってあげていた事を。
食事のお世話も、寝泊まりする場所のお世話もしてあげていた事を。