異世界から来た愛しい騎士様へ
「セリム、仕事中申し訳ないのだけれど、お水を飲みたくなったの。一緒に来てくれるかしら?」
「かしこまりました。」
セリムは深く礼をした後に、腰にある剣の柄の部分に手を置きながら歩き始めた。
静な廊下に2人の足音。そして、ランプの明かりで照らされゆらゆらと揺らめく影。
一人だと怖くなってしまいそうだったが、セリムと共にいると、夜の散歩のようだと思えてしまうから不思議だ。
「やはり、夜は危険なのね。」
「そうですね。城に奇襲されたほとんどが夜間だったので、夜の方が警戒してしまいますね。」
「そう………セリムも無理はしないでね。私の部屋からセリムの部屋が見えるのだけれど、朝早くから仕事をしているのに、いつも夜も遅いでしょ?」
「エルハム様………心配していただきありがとうございます。それだけでも、今まで以上に頑張れる気がします。」
「………セリムは頑張りすぎなのよ。」
エルハムは苦笑しながらも、久しぶりにゆっくりとセリムと話せることが嬉しかった。
若くして騎士団長になった彼は、きっと苦労も多いと思う。けれど、セリムは一言も弱音や愚痴を吐かずに、誰よりも懸命に団長の仕事をこなしていた。気配りがきく彼の事だ。団長以上の仕事もしているのだろうと、エルハムはわかっていた。
「私の事を気に掛けていただけるのはうれしいのですが……エルハム様も夜遅くまで起きていらっしゃるのですね。何か公務がありましたか?」
「ううん。私は違うの。この前まではコメットの事を知っておこうと思って調べていたんだけど。今は、ミツキが来たという世界について何か手がかりはないかと思って………。」
「ミツキ、ですか………。」
丁度厨房に着き、エルハムは持っていたランプをテープルに置いて水が入った容器から水差しに水を移した。
エルハムが答えた後、セリムは考え込むように黙ってしまう。やはり、まだセリムはミツキを認めてはいないのだとエルハムは改めて実感した。
お互いに主力の騎士団員であるし、どちらも仕事や訓練には真面目だ。セリムはどうして認めないのだろうか。そんな疑問が頭を過った時。
セリムがグラスを載せたトレイを持って近づき、エルハムの水差しも載せた。