異世界から来た愛しい騎士様へ



 その彼の言葉に、エルハムは深く傷ついていた。約束とは言え男女が抱きしめあっているのを見ても、ミツキは「口を出す権利はない。」だけで終わったのだ。エルハムもセリムも、ミツキより地位は上なのだから当たり前の事なのもわかっている。
 けれど、何故か悲しいのだ。



 ………エルハムは、ミツキに特別な事を求めていたのだとわかり、切なくなった。


 ミツキにとって、自分は特別ではなく、専属護衛として守らなくてはいけない人という存在なだけなのだと、改めて実感したのだった。







 「エルハム姫様。お忙しい時間にすみません。昨晩は奇襲事件があったとか………お怪我はされませんでしたか?」


 応接室にいたのは、以前エルハムとミツキが買い物へ行った本屋の店主だ。トレードマークである丸眼鏡は今日も綺麗に磨かれていた。


 「ご心配ありがとう。私は大丈夫よ。それより、こんな時に訪ねてくれるなんて急用だったかしら?」
 「はい。実はやっとの事で思い出したのです。やはり年を取ると何の記憶だったかわからなくなってしまいますな………。」
 「もしかして、それは………!」
 「先日お話しをしました、ミツキ殿が前に居たというニホンについて書かれた本についてでございます。」


 その言葉を聞き、エルハムとミツキは驚き、目を大きくさせた。ミツキは店主に近づき、「それはどこにある?本屋にあるのか?」と、問い詰めていた。エルハムは、「ミツキ、落ち着いて。ゆっくりとお話を聞きましょう。」と、彼を窘めた。すると、ミツキはハッとした表情になり店主に頭を下げてエルハムの後方へと控えた。



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