異世界から来た愛しい騎士様へ



 セイは、ぎこちなく微笑んでくれた。
 そして、部屋の中に入れてくれたのだ。
 広めの部屋は少し薄暗く感じた。けれど、彼女が居やすい雰囲気に合わせようと、何も言わずにエルハムは小さな椅子に座った。
 ベットに机や棚があり、机の上には裁縫セットと布が置いてある。布はもちろんエルハムが準備したものだ。それにはとても鮮やかなな刺繍がしてあった。

 セイは、エルハムと向かい合うようにベットに座った。彼女は気まずそうに、視線をキョロキョロさせている。


 「城の生活はどうかしら?何か困っている事はない?」
 「皆さん、とても優しくしてくださっているので、感謝しています。エルハム様、ありがとうございます。」
 「そう。よかったわ。私はあなたに何も出来ていないけど、城の人たちがそれを聞いたら喜ぶと思うわよ。」
 「な………何もしてないなんて事はありませんっ!」
 「セイ………。」


 セイは焦ったように大声を出して、エルハムの言葉を否定した。そして、その瞳には涙が溜まって行くのがわかった。


 「エルハム様が毎日のようにここに来てくれた事。本当に感謝しているです。始めは……その、シトロン国と対立する何かの争いに巻き込まれたのだから、城に居るのも嫌でした。お父さんとお母さんが死んでしまって、一人になって………夜も怖くて眠れなくて。本当に辛かったですけど、もし一人だったらと思うと、もっと怖くなって。そんな時にエルハム様のいつもと変わらない優しいお声を聞いたり、騎士団の人に見守って貰っているから、だからこうやって生きていられるんだってわかったんです。」
 「……セイはすごいわね。私はお母様が亡くなった時はセイよりもダメになってしまったの。セイが元気になってくれるのは嬉しいけど、我慢はしなくていいのよ。」


 両親を目の前で亡くしたセイの絶望と悲しみは、エルハム以上のはずだ。それなのに、セイは少しずつ前を向こうとしている。
 そんなセイを見て、エルハムは無理をしているのではないかと心配になったのだ。


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