異世界から来た愛しい騎士様へ
すっかり大人になったミツキは小さい頃の面影を残しながらも、立派な大人の男性なっていた。鋭い目付きに、ショッした輪郭、ゴツゴツとした手に、鍛えられた体。そんな彼に見つめられてしまうと、幼い頃には感じたことのない、胸の高なりを味わってしまう。けれど、それは嫌な感覚ではなく、不思議な気持ちだった。
そわそわしながらも、ミツキの真っ黒な瞳を見つめていると、ミツキは心配そうにゆっくりとエルハムに言葉を掛けてきた。
「………姫様は、大丈夫ですか?」
「……え………。」
「姫様は、怪我をした俺やセイの心配ばかりしています。狙われたのは姫様です。怖い、ですよね?それに、先ほどから泣きそうな顔を、しています。何かありましたか?」
「…………。」
「専属騎士になった時にした約束。姫様は覚えてますか?」
覚えているに決まっていた。
エルハムにとって、その約束は姫としてではない、人間として甘えられる場所が出来た瞬間なのだ。自分の本当の気持ちを、周りの目を気にせずに話せる。それがミツキ、ただ一人の存在なのだ。
小さかった彼の体温を感じながら約束を交わしたのだ。
ここで、黙ることは出来ない。
ミツキに甘えるしかないのだ。
約束のために言うだけ。
約束を破らないために話すだけ。
そう思いながらも、彼に話す前だったけれど、エルハムは気持ちがスッと落ち着いたのを感じていた。
「怖くなかったと言ったら嘘になるけれど……今は、それよりも自分のせいで傷つく人がいるのが、怖いわ。私がいなかったら、セイもセイの両親も、それに………ミツキだって怪我をしなくてもよかったはずだから。それと、自分がとても情けなくなってしまってたの。」
「情けない?」
「えぇ。セイがせっかく本当の事を話してくれて、私に謝罪までしてくれたのに。私は彼女に言葉を掛けることすら出来なかった。何を言えばいいのか、それに、自分の判断が正しいのか迷ってしまったわ。……これは姫失格ね。」