女王陛下のお婿さま

 玉座の前に来た女王アルベルティーナは皆の方へ向きなおり、美しい笑みを浮かべた。


「――――良い夜です。皆、今宵は存分に楽しまれよ」


 まるで心地の良いフルートの音のような声。それが彼女の形の良い口から紡がれると、会場中の誰もがその声にうっとりと聞き入り、次にまたその音がしないかと期待する。

 しかし女王陛下のお言葉はそれだけだった。アルベルティーナは皆にもう一度笑みを向けると、玉座にゆっくりと腰掛けた。

 それを合図に、静寂を保っていた楽師たちは、また演奏を開始した。すると緊張の解かれた紳士淑女もまたダンスを踊ったり、近くの者と歓談を始めたのだった。

 そんな光景を眺めながらアルベルティーナは、顔では微笑みを絶やさずに、心では全く別の事を考えていた。


(……ああ、早く終わらないかしら)


 今夜の衣装は最悪だった。下に着ているコルセットはウエストを締め過ぎていて苦しいし、スカートのパニエはガサガサしていて重くて歩き辛い。胸元のネックレスは会場のシャンデリアの光にやたら反射して眩しくて嫌だ。

 挙句に、結い上げた髪も上に引っ張られ過ぎてこめかみが痛い。

 とにかく、何もかもが嫌だった。
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