女王陛下のお婿さま


「何処へ行くのか、マイラは聞いてる?」

「ええと……鏡の泉へ行くと聞いておりますが……」


 『鏡の泉』とは王家所有の敷地にあるちょっとした湖だ。山の麓の森の中にあり、静かで美しい所で城からも近い。馬を使えばどんなにゆっくり進んでも、半日とかからない場所だった。


「……思っていたよりも近いのね。あの王子の事だから、山ひとつ越えるぐらいはするのかと思っていたわ」


 嫌味を含んだアルベルティーナの言葉に、マイラは思わず吹き出してしまった。確かに、あの強気で強引なファビオなら、山越えくらいは造作もなさそうだ。

 アルベルティーナは渡されたドレスに着替え始めた。マイラもそれを手伝う。

 今回は公務でも舞踏会でも無いので、スカートの下のパニエは動きやすいようにあまり膨らまない、薄手のもの。ガサガサしないので、気分的に少し楽だ。

 着替えが終わると鏡台へ座った。そしてそこに用意してあった桶の水で顔を洗う。その後は、マイラが髪を解かし結ってくれる。


「でも、公務じゃない外出は久しぶりだわ……」


 この二年、女王としての公務が忙しく、なかなか自由な時間は取れなかった。だから内容はどうあれ、外出は純粋に嬉しい。
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