ココロとセツナ
天気は快晴。10月のある日曜日。
マナを誘って、ショッピングモールに来た。
急に、何かを彼女に贈りたくなったから。

「何が欲しい?」

マナは考え込むような仕草をしたが、
「わからない」

と、きっぱり答えた。想定内。
買い物など、したことが無いのだろう。

「じゃあ、服を買ってあげる。あまり持ってなさそうだから」

「そう?白装束なら7着はある」

「普通の洋服!」

手を繋いで、色々なショップの中に入る。店員のアドバイスを受けながら、次々とマナに綺麗な洋服を試着させる。

想定外の、可愛らしさ。
何を着ても、驚くほど絵になるのはさすがというべきか。
君に、また夢中になってしまう。

「白いワンピース、1番似合うね」

「じゃあ、これにする」

正直、彼女はどれがいいのかわからなかったようなので、俺が勧めるままに白いワンピースに決定してしまった。

「そのまま着ていて欲しいな」

一緒に選んだ服を着てくれて、手を繋いで笑いながら、寄り添って歩いてくれる。
幸せが青空まで突き抜けてしまいそうな、爽快な気分の一日。

ランチが終わると、海が見える空中庭園を、2人で散歩して歩く。

「赤が、マナには1番似合うと思っていたけど、違ったね。白だった」

「赤?」

「情熱の赤。君は不死鳥なんでしょう?」

「そう。でも、色は内緒」

マナは歩きながら答え、少し考えた。

「そういえば、赤…。『赤い色』のあなたには、まだ会えていない」

マナは、俺を見つめた。

「『青』のあなたは、『赤』の彼のこと、何か知らない?」

「マナ」

少しだけ、ムッとして、俺は立ち止まる。

「他の男の事を、考えるのは禁止」

「あなたの事だよ」

「今は、完全に他の男」

俺は彼女を引き寄せ、強引に抱きしめる。
壊れてしまわないよう、気をつけながら。

「わかるよ。君は俺たちを1つにしたい。多分、それは可能だと思う。でも…」

こんな感情が、自分にもあったなんて。

もう、君しか目に入らない。

これが嫉妬、という感情?

「俺だけ見て」

耳元で囁くと、彼女は顔が赤くなり、逃げたくなったのか咄嗟にこう言った。

「人が見てる」

真昼の、ショッピングモール。
10月の日曜日。
周りを歩く人達は皆、こちらを見ている。
道の真ん中で、ラブシーンをしているから。

誰が見ていたって、構わない。

「恥ずかしい?不死鳥なのに?」

耳元に、そっとキスをする。

触れている部分は、くすぐったさを伴いながら、確かに感じ合っている。


心は、触れ合っているの?

ちゃんと、君に伝わっているの?


瞳を見つめる。深い、深い黒。
吸い込まれそう。


「恥ずかしいなら、今だけ目を瞑って」


彼女は、俺に言われた通りに、目を瞑った。


可愛い。


彼女の髪を、ゆっくりと撫でてみる。
体を、優しく引き寄せてみる。


唇に、そっとキスをしてみる。


そして、急に、


我に返る。



「何やってんだ、俺」


顔が熱い。


「走ろ!」


マナの手を引いて、2人で海の近くまで、全力で走った。照れたように笑いながら。


そして夕方になった。


2人で手を繋いで海岸線に落ちる夕陽を眺めながら、俺は白状した。


「『赤』の俺だけは、ただ1人、現実と正面から戦っていたんだ」

「え…?」


「7年間。だから許してあげて」


「何を…?」


「あいつが、どんな事を言い出しても」


マナは、頷いた。



「もちろん」
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