あまい・甘い・あま~い香りに誘われて
そんな虎太朗の姿に二人は顔を見合わせて笑い、お父さんは「家にもゆっくり遊びにおいで」と優しく笑いかけてくれた。

「素敵なお父さんだね」
二人を見送り虎太朗にそう伝えると
「ん、ずっと実の子どもみたいに育ててくれて感謝してる」

「ねぇ、もしかして晒名総合病院って…」
「あぁ、じぃちゃんの病院。親父が副医院長。お袋がそこの看護師してる。俺もたぶん医者を目指すことになる」
そう将来のことを話す虎太朗は少し寂しそうな顔をした。

聞いていいのかな…少し迷いながら私は口をひらいた。

「昔…こっちゃんは大きくなったらお父さんみたいな警察官になるんだっていってたね。子供の頃の夢なんて変わって当然なんだけど虎太朗は…医者を目指すことは自分の夢なの?」

虎太朗は一瞬びっくりしたように目を見開いて寂しそうに笑った。

「覚えてたんだ。
葵は、、、親父がなんで死んだのか覚えてる?」

私は小さく首を左右にふった。
「こっちゃんがずっと泣いてる姿が記憶にあるだけ」

「そっか。」
虎太朗はそれっきり口を閉ざし、気まずくて私は
「着替えてくるね」
と彼に背を向けた。
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