僕は君と、本の世界で恋をした。
図書館内は普段と変わらずひっそり静まり返っている。
人の数もまばらで、先ほどまでの騒がしさはここにはない。

私はこの図書館の静かな雰囲気が好きだった。
自分にとっての安全地帯にようやく来ることができて、私は大きく肩の力を抜いた。

ひとりになりたかった。
何もかも忘れて集中できる場所がほしかった。
自宅には母がいるからそれができない。

この大学に入学してから、この大学の図書館に通い、閉館ギリギリまで過ごすことが私の日課になっていた。

私は館内の中心へと向かうと、『今週のおすすめ小説』というコーナーの棚に近づき、置かれている本を眺めた。

読みたい本はこれといって決まっているわけではないから、図書館司書が薦める本を読んでいる。

棚には芥川賞と直木賞の上半期受賞作品が置かれていた。
でもそれはもうすでに読み終わっている。

他にも並べられている本を順々に左側から目で追いながら、『これは読んだ、これも読んだ』と心の中で確認していく。

もう全部読んでしまったかもしれないと思いながら並べられた本の一番右端を見ると、そこにはまだ読んでいない本があった。

あれ? こんな本、昨日はあったかな?

クリーム色の触り心地の良い上質紙に巻かれたB6判サイズの単行本。

持っても重みを感じさせないその本は、それほど時間をかけずに読んでしまえそうな厚み。

聞いたことのないタイトル。
今日はこれを読んでみよう。

読む本を決めたら、お気に入りの席へと向かう。
その席は図書館の奥まった場所にあるソファだった。
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