夏色の初恋を君にあげる




『人はみな主人公』という言葉をどこかで聞いたことがあるけれど、私はそうは思わない。

物心ついた時からすぐ近くに圧倒的な主人公がいて、私はスポットライトの当たらない脇役だったから――。





グラウンドから部活の掛け声が聞こえてくる。

放課後、静かな図書室でサッカー部の掛け声を聞いているこの時が、私の一番好きな時間だ。



私、高野凛子は、高三に進級して図書委員になった。


図書委員は主に昼休みと放課後に、本の貸し出しに関する手続きをするのが仕事だ。

各クラスからひとりしか選出されていない上、放課後は部活で来られないという人が多く、月曜と水曜の放課後は私が毎週ひとりで図書委員の業務を担っている。

とは言っても、海風学園の図書室は利用者が多くはなく、負担はそれほどない。



「海風ー、ファイオー、ファイオー」



グラウンドでは、サッカー部のランニングが始まったらしい。

何人もの声が重なるその中から、私は一筋の綺麗な声を正確に切り取り出す。


その声の持ち主──由良恭弥くんは、ひとつ年下のサッカー部員。

甘く、それでいてムダのないさっぱりとした端正な顔立ちで、女子からの人気はとても高い。

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