天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
天国の入口
 それからも仁科先生は時々昼休みの屋上に煙草を吸いに来た。


 先客の私には

「よぅ」

と挨拶するのみで、まるで邪魔しないようにでもしているのかそれ以上話し掛けて来ることはなかった。

 ましてや屋上は立ち入り禁止だ、とか、授業をさぼるな、とか説教することもなかった。


 だから私は始めこそ先生が疎ましかったけれど、いつしか気にならなくなっていた。


 空と風、それから光。

 それさえあれば誰が居ようが居まいがなんら関係ない。


 それも仁科先生みたいな腰掛け教師、私にとってその存在自体が取るに足らない、眼中にないものだった。



 3月に入ると、今年は菜種梅雨が長く雨が続くようになった。

 雨の日は流石に屋上で過ごすことが出来ず、私は屋上に通わなくなった。


 今日も朝から教室の窓から見える景色を煙らす冷たい雨に私は溜め息を吐く。

 早く春になればいいのに。
 空に燦々と輝く目映い太陽を昇らせて。
 いつもの場所でその暖かな光を身体いっぱいに浴びさせて。
 そうでないと私は…


 私は

 壊れてしまう─



 青い青い空と風、目映い陽の光。

 それだけが私を創る要素。


 他に何も要らないけれど、それが、それだけはなくては私は生きられない。


(中毒になってるんだ…)


 窓の外には陰鬱な雨。

 遠い太陽を思った時、私はそう思った。

           *
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