ピュアダーク
 抱きしめられた体はもっと強くパトリックの腕に締め付けられる。

 心臓だけがドキドキと激しく高鳴っていた。

 ベアトリスはこの状況をどうしようか迷ってるときだった。

 パトリックがまた耳元で囁いた。

「ベアトリス、弾力があって気持ちいい」

 迷わずパトリックを強く押しのけ、ベアトリスは立ち上がり無言でスタスタと歩いていった。

 パトリックはクスクス笑いながら、後をついていく。

 ──どうせ私は太って弾力があるわよ。

 気にしていることを言われつい自棄になってしまったが、パトリックには罪はない。

 結局は自己嫌悪に陥り、深くため息が出てしまった。

 そんな湿った顔のままではいけないと、アメリアの病室の前に来たとき、少し立ち止まった。

 その時、ちょうどアメリアの部屋から出てきたスーツを着た男性二人組みとかち合った。

 二人はベアトリスに気づくと、刑事の証であるバッジが入ったホルダーをさっと見せ、早速軽く質問を浴びせられた。

 アメリアの事情聴取に来て、詳しいことを訊きたがったが、ベアトリスが答えられる範囲は限られていた。

 すでに他の目撃証言と同じだとわかると、二人の刑事は軽く礼を言ってすぐに切り上げて去っていった。

 刑事との話で、アメリアが首を絞められていたショッキングなシーンがフラッシュバックしてしまい、恐怖心が蘇ると共に、重苦しく憂鬱な気分が舞い戻ってくる。

 それを読み取ったパトリックが優しくベアトリスの肩に手を置いた。

 気を遣って自分を労っているパトリックの顔を見ると、心の重苦しい部分が少し軽くなる気がした。

 一人でいたらその重さに潰されて苦しかったかと思うと、突然現れたパトリックに少し感謝の気持ちが湧くようだった。

 結局自然とパトリックを受け入れてしまい、アメリアの病室へと手招きしてしまった。

「アメリア、手続き終わったわ。とにかく帰る準備しようか」

「そうね、ここに居るより家にいた方がいいわ。タクシーを手配しましょう」

「それから、あのね…… 」

 ベアトリスが躊躇いながらどう説明しようかいいにくそうにしていると、そんなことはお構いなしにアメリアの視界に入るようにパトリックはしゃしゃり出 た。

 アメリアは目を細め、嫌悪感を露骨に見せる。

「お久しぶりです。といっても面識は殆どありませんが。アメリアのことはよく存じております」

「あなたはマコーミック家の息子ね。なぜここにいるの」

「はい。パトリックです。ベアトリスの婚約者の。やっと彼女を探しあてました。連絡もずっとくれずに酷いじゃないですか」

 アメリアはため息をついた。

「あの婚約は無効よ。ベアトリスは誰のものでもないの」

 アメリアがはっきりと言い切ったことに、ベアトリスは嬉しくなり、威張るように胸を張ってパトリックを見た。

 パトリックはそれにも動じないで余裕の微笑を返し反論する。

「僕が何も知らないとでも? あなたがあのとき何をしたか、他にも知ってる者がいると考えたことないんですか?」

 パトリックは優しい笑顔を見せながら、それとはアンバランスなチクリとさすものの言い方をした。

「どういう意味?」

 アメリアの表情が強張った。

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