ピュアダーク
 いつ動き出すか判らず、また次のバスが来るのを待つほどでもなく歩いて帰れることから、ヴィンセントは黙って下車した。

 下車した目の前には大型スーパーマーケットがあり、ヴィンセントはそこに足を運んだ。

 適当に食べるものを買い、そしてフリーで発行されている中古車の情報誌を手に入れた。

 買い物を済ませた後も、さっき乗っていたバスがまだ同じ場所に止まっているのが見えた。

 目をそらし、原因がはっきりせぬままでも、後ろめたい気持ちでその場を後にした。

 何度もため息を漏らし、足取り重く歩く。

「何もかも失い、希望も見い出せないほどに落ち込むダークライトか。こういうときは周りも恐怖に陥れるほどの恐ろしい姿で暴れたくなってくる……」

 またバカなことを考えているときだった。

 パトリックが言っていた、ベアトリスが何かに気がついて自分を探していると知らされたことが、この時になってふとひっかかる。

「あの時ベアトリスが俺を探してたのはどういうことだ。俺の正体に気がついたってことなのか。まさか。でもだったらなぜ俺を探すんだ。確かめてどうしたいんだ。しかし、事実を知ってしまったら彼女は俺をもっと避けることになるだろう。何を考えたところでどうすることもできない。くそっ!」

 ヴィンセントは片手で胸を押さえ込み、自分の心臓を鷲づかみする勢いで感情をコントロールするのに必死だった。

 歯を食いしばり、胃炎を起こしたようになりながらもがき苦しむ。

 ヴィンセントがここまでベアトリスに惚れる理由。

 それはヴィンセントもまたパトリックのように過去の子供の頃の思い出に刻まれているからだった。

 だがそれは、ベアトリスにとっては最悪の事態を引き起こし、また全て失う結果になってしまった。

 しかしベアトリスはこのときのことを思い出せないでいる。

 ところどころの記憶を全く何も起こってないかのように黒く塗りつぶされてしまった。

 ヴィンセントは過去に遡ってまでベアトリスとの関係をコントロールされる。

 その抑圧で想いだけは反発するように強くなって行った。

 ダークライトとしてホワイトライトの力を得たい気持ちと紙一重といわれても仕方ない程、執着するように心を囚われてしまっていた。
 
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