ピュアダーク
 実際のプロムデートのサラとは何の問題もないが、計画実行後の相手はベアトリスであり、ホテルの部屋で二人きりとなると、内心紳士的にいられるか正直わからなかった。

 つい要らぬことを考えてしまった。

 想像したことに罪悪感を感じるのか、ヴィンセントは頭を掻き毟るように引っ掻かずにはいられなくなった。

 そして横目でコーヒーを飲むリチャードをジロジロみていた。

 ばれたら追い出されることも覚悟して、そんなことを怖がっている暇はないと、もうこのプロムに自分の人生を賭けるつもりでいた。

「なんだお前、さっきからにんじんかじりながらジロジロみて。まるであのウサギのキャラクターみたいだな」

「What's up, Doc? (なんか変わったことある?)」

 ヴィンセントはどうにでもなれと開き直ってそのキャラクターの口癖を真似した。

 リチャードはコーヒーカップをシンクの中に置き、仕事場に向かう準備をする。

 ヴィンセントに笑顔で楽しんで来いと声を掛けて出て行った。

「明日はあの笑顔が鬼になって、そして俺は地獄行き…… って筋書きかな」

 ヴィンセントは気持ちを奮い起こすために自分の頬をピシャピシャと叩いていた。

 そしてプロムまであと数時間と迫った。まるで決戦のように、それぞれの野望を抱き力が入る──。
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