ピュアダーク
 ホテルの会場内は無法地帯となり、男女隔てることなく誰もが殴り合い、物を投げ合って収集がつかなくなっていた。

「ヴィンセント、影をおびき出す空間を作れ」

 リチャードが指図すると、ヴィンセントは集中して、辺りを真っ赤に染め上げ、普通の人間が耐えられないくらいの圧迫したゼリー状のような空間を作り上げた。

 次々に人々は不快な空間で意識を失い床に倒れこんでいく。

 影が入り込んだ人間が倒れこむと、次々と体からあぶりだされるように出ては宙に漂っていた。

 ヴィンセントは爪でそれを次々に切り裂き、パトリックはデバイスから出る光の剣で突き刺して退治していく。

 リチャードはゴードンを見つけ、素早く駆けつけると首根っこを掴んだ。

 ゴードンの背中から影が出てくると、指をパチンと鳴らして、それを一瞬で燃やした。

 ゴードンはだらっと首をうなだれて意識を失っていた。

 全てが片付き、空間はまた元に戻った。

 辺り一面、人が重なり合って倒れこんでいる。足の踏み場も難しいところだった。

「当分は彼らも目を覚まさないだろう。起きたときに何を思うかだが、とんでもないプロムになってしまったもんだ」

 リチャードは周りを見回していた。

「そんな同情してる暇はねぇよ。ベアトリスを助けに行かなくっちゃ。おい、お前起きろ」

 ヴィンセントはゴードンの頬を何度も叩く。

「とにかくここではなんだから外に出よう」

 パトリックが会場を離れてホテルのロビーに出る。

 ロビーにいた人たちはプロムパーティの混乱で慌しく右往左往していた。

 そこでうろたえてるアメリアとかちあった。

「パトリック! 一体何が起こってるの? ベアトリスはどこ?」

「アメリア…… 申し訳ございません。僕がついていながら、ベアトリスは……」

 その先が言葉にできなかった。

 ヴィンセントも後から現れ、アメリアに気がつくと思わず顔を背けてしまった。

 そしてリチャードがゴードンを引きずりながらアメリアの前に現れた。

「その男は私の首を絞めた男。まさかベアトリスはダークライトに連れ去られたの?」

「アメリアすまない。油断していた。コールがベアトリスを連れて行ってしまった」

 アメリアは、ショックで全身の力を失いバランスを崩し倒れると、パトリックとヴィンセントが慌てて支えた。近くにあったソファーにアメリアを座らせる。

 アメリアは頭を抱えながら嘆いた。

「どうして、こんなことになるの。あなたたちが一緒にいながら何をしてたの」

 ヴィンセントが下を向きながら弱々しい声で事の発端を説明し出した。

 そしてリチャードの鉄拳が飛ぶ瞬間パトリックがヴィンセントの前に立ちはだかり庇っ た。

「いえ、これはヴィンセントだけの責任じゃありません。真実を洩らした僕にも責任があります。どうか今は落ち着いて下さい。まずはベアトリスの救助が先です」

「いや、責任は私にもある。変化を目の前にしながらコールの計画を見抜けなかったのは私の過失だ」

 リチャードも拳をおろし悔やんだ。

「責任はどうでもいい、とにかく早くベアトリスを救って。このままじゃ殺されてしまう」

 アメリアは発狂しそうになりながら、目に涙を一杯溜めていた。

「とにかくコイツを起こさないと」

 パトリックはデバイスを取り出し、それから出る光をゴードンに向けた。

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