コール・ミー!!!
「うん。…滝君を、見てた」

「…」


でも。
全く見当違いな事を、
自分は、やっている気がしてくる。


本当に自分が見たいのは、
今、目に映っている滝君では、無いのかもしれない。


「滝の事、好き?」


トオヤに聞かれてしまう。


「…わからない」



瑠衣は笑って首を横に振り、トオヤに言った。



「時間ある?大丈夫なら、どこかに寄って帰ろう、トオヤ」


「うん」




2人で電車に乗り、2駅目で降りる。
その駅の近くにある、小さな植物園に寄った。

「ここの年間パスも、持ってるの?」
トオヤは瑠衣に、聞いてきた。

瑠衣は頷いた。

「もちろん!」

トオヤは感心した様な無表情で、

「じゃ俺も今日作ろ」
と言った。

瑠衣は、それを聞いて笑ってしまった。
…真似されちゃった。




「年パス仲間」
トオヤは入り口で無事、ゲットした年間パスポートを瑠衣に見せながら、微笑んだ。

学校の制服のまま園内を、目的も無いまま、ただ2人で閉園まで歩き回った。

「いい香り…。…綺麗だね」


「…うん」


薔薇園の中ではトオヤも、瑠衣も、ほとんど会話をしなかった。
赤、ピンク、白、…様々な種類の薔薇の花を、ゆっくりと2人で見て回る。

凛とした姿勢で咲いている白い薔薇に、瑠衣は顔を近づけてみた。

薔薇特有の甘い香りが、鼻をくすぐる。


白い薔薇。


気高くて美しい、
貴方の様な姿と心に、
少しでも、近づけたらいいのに。


突然、すぐ側を歩くトオヤと目が合った。


直視すると突然、全身囚われる。
彼の視線から出る、強い魔法に。



トオヤは薔薇では無く、
その瞳で瑠衣だけを、ただ見つめていた。



瑠衣はそれに気づいてしまい、どぎまぎして落ち着かなくなりながら、薔薇の方に慌てて視線を戻した。



しばらく歩くと、ハイビスカスばかりが咲いている温室に着いた。

赤いハイビスカスの、むせ返る香り。
彼女たちには自分が向いていたい方角が、ちゃんとわかっている。

光が無い場所で生まれた時には、上だけを見て、しっかりと咲き誇る。

ハイビスカスは、東條さんの艶やかな笑顔を思い出す。


何でも、話してみたくなるような。



「瑠衣」


「ん?」


「俺、明日からテストまでの間、学校休む」


瑠衣は、驚いた。


「どうして?」


トオヤは、今までに見た事の無い真剣な表情を、瑠衣に見せた。


「アメリカに行く」


「…アメリカ?」


トオヤは頷いた。


どうして、アメリカ?!


「しばらく会えないから、心配。あのホームで会った男…大丈夫?」

瑠衣は、明るい表情を見せながら頷いた。

「大丈夫!もう会わないと思う。心配しないで。私には科学者の妹もついてるし」



そう。
もう、大丈夫。

あんなヤツ、たとえ会ったって
全然、平気。



「瑠衣」


また射抜く様な瞳で、トオヤに見つめられる。

「何?」


彼の名前の通り、透き通った矢の様に、神秘的な、瞳。


「これ、あげる」


「…?」

瑠衣の中の何かをその矢は、
深く、突き刺していく。

「クリップ」

トオヤは息が触れ合いそうになる距離まで、体を近づけていた。

「……」

瑠衣の制服ブレザーの襟元に、キラキラとした小さなビジューがたくさん輝く小さな白猫クリップを、彼はゆっくりと時間をかけて、つけくれた。



また、ドキドキさせられる。


「…」


「見て、瑠衣」

トオヤが瑠衣の襟元から手を離し、小さく微笑む。


瑠衣は、自分の襟元を見た。

瑠衣が作ったぬいぐるみ、白猫『シルク』と同じ顔をして、キラキラした白猫顔のクリップは、にっこりしながら笑ってる。

「これは、お守り。瑠衣を守る」

トオヤは説明した。

「本当は、靴につけるクリップだけど。好きな所につけていい」


瑠衣は自分の襟元に輝いているクリップを見ると、胸の中が嬉しさで一杯になってしまった。

「ありがとう…。もらっていいの?」

トオヤは、頷いた。

「これは、瑠衣だけのクリップだから」








木曜日。
テスト1週間前になったため、部活動は全て休みになった。

トオヤは、本当に学校を休んだ。

アメリカへ行ってしまったのだ。


昨日、あの後どうしてアメリカに行くのかを聞いてみたが、「内緒」との事で、決して答えてはくれなかった。

『いつか、教えてあげる』

意味深な言葉だけ残して。
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